鎖骨骨折は、転倒したときに手をいて鎖骨にたわむような力がかかった時や、鎖骨部分を直接ぶつけた際に発生します。
一般的な処置法は、クラビクルバンドを装着して三角巾で腕をつるという方法です。
固定時に使用されることが多い鎖骨固定帯(クラビクルバンド)ですが、骨折のタイプによっては、整形外科の先生の中でも使用しないほうが良いという意見の先生もいらっしゃいます。
ましてや、骨片転位(骨のずれ)がある骨折では、レントゲンを撮影してすぐにクラビクルバンドを巻いてもいけません。
クラビクルバンドを巻く前にやるべきことがあります。
今回のブログでは、当院の鎖骨骨折に対しての考え方と施術方法についてご紹介します。
是非、最後までお読みください。
Contents
鎖骨骨折とは
鎖骨には骨の形状により弱い部分があり、たわんでいる部分で骨折します。大部分は中外3分の1の部分に発生し、怪我の仕方によって外端部にも発生します。
骨折の仕方や骨折を起こした年齢によりレントゲンに写ってくる画像に変化が出ます。
若木を折ったような若木骨折や、一本の骨が3つに割れてしまい第3骨片が出来てしまう場合もあります。
骨折を起こした時の力の加わり方や筋肉や腕の重みの影響で骨片転位が発生します。
鎖骨骨折の際に影響を及ぼす筋肉
鎖骨骨折の骨片転位(骨のずれ)は中枢片と末梢片で骨のずれ方が違います。中枢片は首に近い側で末梢片は肩に近い方です。
下のイラストのように中枢片は胸鎖乳突筋によって後上方に転位し、末梢片は腕の重みにより下方に転位します。それと、胸筋・鎖骨下筋・背筋群の影響により短縮転位を起こします。
しかし最近は、中枢片の転位をさせると言われてきた胸鎖乳突筋は、鎖骨への付着状態、また患者様が受傷後に首をかしげて来院される(胸鎖乳突筋を緩めて痛みを和らげようとするため)ことから、中枢片の骨片転位には影響が少ないという理論が発表されています。
鎖骨骨折で気をつける事
鎖骨骨折は、折れる前の状態に100%綺麗に戻すということは構造上難しい部分がありますが、きちんとした整復と固定を行えば、体の機能的には問題なく治ります。
その中でも、鎖骨骨折を治療する際に注意する事があります。以下に挙げてみます。
- 骨片転位状況を改善させる事
- 胸郭を拡大する事
- 腕の重みを減らす事
- 整復する際には神経や血管に注意する事
鎖骨骨折の施術法
まずは、骨折によって起きた転位状況を確認し、骨の状態を戻すことが第一優先です。
年齢を問わず、大体の鎖骨骨折は骨片転位がありますので、最初にいい状態に戻しておく必要があります。すぐに、クラビクルバンドを巻いて三角巾で腕をつってはいけません。
整復(ずれた骨の位置をもどす動作)に当たっては末梢片を中枢片に合わせていきます。
鎖骨骨折の転位が大きいままですと、偽関節(骨がつかない状態)が発生したり、転位が大きいまま骨癒合すると変形が目立ったり、鎖骨の下を通る神経の圧迫が起きたりします。
鎖骨骨折整復台を用いた鎖骨整復法
当院では、代々伝わる鎖骨骨折に対する整復台がありますので、年齢や体の状態を考えて可能な方には使用します。
整復台の上で胸を張った姿勢を維持しておくことで短縮転位が改善されます。整復台に乗れない方は別の方法で行います。
短縮転位を除去した後は末梢片を中枢片に合わせるように整復をします。
当院では、整復後にエコー検査をして骨のずれ具合をチェックします。
鎖骨骨折の固定における注意
病院では、鎖骨骨折に対しての固定法では鎖骨固定帯(クラビクルバンド)と三角巾による固定が一般的ではないかと思います。
ただ、一般的に多く使用されるクラビクルバンドですが、骨折のタイプによってはバンドを巻いた際のバンドの位置に問題があり、末梢片の転位を助長する(骨のずれを大きくしてしまう)から使用しない方がいいという意見もあります。
鎖骨ベルトを巻くことで、骨片転位に(骨のずれ)に悪影響を及ぼしてしまう場合があるからです。
知り合いの整形外科の先生も、クラビクルバンドは使用していません。
そうはいっても、鎖骨骨折では胸郭を拡大(胸を張る事)する事は必要です。
当院でもクラビクルバンドは使用せず、別の方法で固定をします。
詳しい方法はここには記載しませんが、骨折部を安定させるように固定します。
当院が行う鎖骨骨折の固定法
当院では、鎖骨骨折の固定に対しては胸郭を拡大する事の他に、腕の重みを軽減することを最優先として、三角巾や包帯を使用し末梢片を上に持ち上げる事に重点を置いています。
その理由は、次に紹介するレントゲンを見ていただくと理由がわかると思います。
鎖骨骨折の場合に腕の重みを軽減させた方がいい理由
まずは、受傷時の鎖骨骨折の写真です。骨折部に段差が確認できます。
①受傷時
②腕の重みを軽減させた状態
肘を支点と視点として肩をに向かって突き上げるようにします。
下の写真のように肩に向かって力を加えます。
骨折部の段差に注目して頂きたいと思います。骨折時に確認できた段差が減っているのが確認できます。
このように骨片転位(骨のずれ)のある骨折では、腕の重みをいかに軽減するかによって骨の形に変化が出ていきます。
鎖骨骨折の三角巾の使い方
三角巾の使い方も工夫が必要で、上肢の重み軽減して鎖骨部を外側に引き出すように使用します。
このような腕の吊り方では不十分なんですね。
①の肘関節をもっと曲げて角度をつける必要があります。
②の部分を反対側の肩へ近ずけるようにします。
また、三角巾部の後方を結び合わせることにより上肢の動揺性が防げます。
当院では、三角巾固定を継続すると首が痛くなってきたり疲れてきますので、日中は自宅で過ごす場合にはひじ掛けのある椅子に座ってもらい上肢が下がらないようにしてもらいます。(上肢を下げとくよりは少し上にあげといたほうが骨の状態がきれいにつきます。)
自宅でもこのような状態をなるべく保つようにしてもらいます。
立って動く時や就寝時は三角巾を使用して頂きます。
先程の整復台にて骨片が良い状態に戻ればそのままの状態で固定に入ります。
固定期間は、中外1/3境界部の定型的な骨折のタイプであれば3~4週間位の固定となり、外端部の骨折だと長期になります。
当院では可能な限り通院していただき、骨片が安定してくるまでは整復台を使用し、鎖骨の短縮転位をとるようにします。
また、骨のつきをよくするために微弱電流通電をします。微弱電流の通電を骨折部に行う事により骨がつく期間が短縮されます。
鎖骨骨折のリハビリ
骨折部分が安定してくるとリハビリの開始となります。鎖骨骨折は骨折した側の肩関節が拘縮を起こすことが多いです。
肩関節の拘縮がみられる方には、BFI療法を行います。
肩関節拘縮の改善にはBFI療法を行うと、肩関節にだけ行う従来の運動療法よりも回復スピードが早まります。
自宅では、振り子運動から開始してもらいます。徐々に負荷をかけたり運動内容に変化をつけていきます。この時に気を付けなくてはいけないことは、リハビリ動作に伴う痛みを発生させないようにすることです。
鎖骨骨折時の入浴方法
当院では、骨折部が安定するまでは下半身のみ洗って頂いています。頭髪や洗顔はドライシャンプーを利用してもらったり、温めたタオルで拭いてもらいます。いずれも、家族などのサポートが必要になります。
全身浴は骨折部が安定してからが好ましいです。
骨折部を含む上半身に関しては、通院治療の際に温めたタオルで拭きます。女性の場合は、有資格者の妻が担当して行います。
鎖骨骨折時の寝る方法
鎖骨骨折を起こした場合には寝たり起きたりする動作で骨折部が刺激され、痛みが発生します。骨折部が安定してくれば、痛みはなくなります。なので、それまでの間は、布団ではなくソファーとか丸めた布団によりかかるように寝ていただくといいと思います。
鎖骨骨折の手術療法
鎖骨骨折の際の手術方法についてご紹介します。鎖骨骨折の際に行われる手術には鋼線による方法とプレートによって骨折部を固定する方法がとられます。骨折部の状態により手術方法の選択がなされます。骨癒合後に鋼線やプレートは除去します。現在は除去しなくていいプレートもあるようです。場合によって、プレート除去後のねじ穴がもとになって再骨折を起こすという例も報告されています。
図5. 鋼線を用いた固定
図6. 専用のプレートを用いた固定法
鎖骨骨折に対するまとめ
鎖骨骨折で大事な事は、上肢の重みによって発生した末梢片の転位と、大胸筋などによって発生した短縮転位を除去する事です。
鎖骨骨折をなるべくきれいに治すためには、クラビクルバンドを巻いて三角巾で手をつってればいいわけではありません。
施術はもちろんの事、日常生活での過ごし方や寝方なども注意する必要があります。
先述した通り、構造上100%骨折前の状態に戻すと言う事は困難ですが、しっかりと骨片整復と固定を行えば、日常生活にも問題なく回復します。
繰り返しますが、大体の鎖骨骨折は骨片転位があるため、骨片転位を整復せずに変形が残った状態で骨がついてしまうと、肩幅が骨折した側だけ短縮してしまいます。
骨折部が安定してくる受傷後約10日位までが勝負です。
それまでの間に、なるべくいい状態をキープしておく必要があります。
約10日以上数が経過してしまうと、骨折部が安定してしまうので、ずれが大きい状態で骨がついてしまった場合には手術対応となってしまう場合もあります。ただし、それらは初期の対応で十分回避が可能になります。
特に女性の方は夏場などファッションによっては外見上目立ってしまいますので、極力きれいに治しておきたいものです。
お困りの方のご相談、ご来院をお待ちしております。