今回のブログは、上腕骨顆上骨折についてのお話です。この骨折は、早期に適切な処置を施さないと、後々変形治癒や成長障害、また機能障害などが発生しやすい骨折です。
上腕骨顆上骨折の治療の仕方には保存療法と手術療法があります。
骨片転位のある骨折を保存療法で治療する場合には高度な技術を必要とする骨折でもあります。構造的に薄い上腕骨顆上部が骨折により破壊されてしまう為に、手術でもしっかりとした固定は難しいと仰る先生もいらっしゃいます。
今このブログをお読みの方は、自分のお子さんや身近なお子さんが上腕骨顆上骨折と診断されて、情報収集の為にこのブログをお読み頂いていると思います。
そのような方の不安が少しでも解消されることを願い、上腕骨顆上骨折についての考え方を過去の経験に基づきご紹介致します。
Contents
上腕骨顆上部の特徴
まずは、上腕骨顆上部の位置です。
正面からみると、上腕骨顆上部は内側上顆と外側上顆を結んだ線上になります。
側面から見ると赤矢印の位置になります。
イラストでは、骨の他に靱帯が書かれていますが、実際は神経・血管・筋肉等が張り巡らされています。
上腕骨顆上部の断面
上腕骨顆上部は扁平で薄く不安定な構造になっています。上腕骨顆上部は構造的に弱く、それに加えて、転倒などで肘関節を伸ばす強い力が加わると、上腕骨顆上部に非常に強い力が加わり伸展型骨折を起こします。
加わった外力の違いや元々の骨の強度の違いなどで、骨折の転位の程度は異なります。
また、骨折部に関係する筋肉に引っ張られて骨片転位が発生します。
上腕骨顆上骨折の特徴
上腕骨顆上骨折伸展型
続いて上腕骨顆上骨折の特徴です。
この骨折は2、3歳から発生し、中学生位までに多く発生します。
この骨折は大きく分けて伸展型骨折と屈曲型骨折に分かれ、伸展型が多くみられます。
上述したように怪我の仕方や骨の質により骨折のタイプが分かれます。
小児と成人では骨の質の違いがある為に折れ方も違います。
また、上腕骨顆上骨折は成人に発生する場合もあります。以前は100歳近い方の顆上骨折を経験しました。
上腕骨顆上骨折伸展型とは、肘を伸ばした状態で転倒し、末梢骨片が後方に転位するタイプです。
この骨折は早期に適切な処置を施さないと変形や機能障害が残ることでも知られています。
骨折の治療の仕方では保存療法と手術療法の2通りの方法があります。
保存療法で骨片を治すことが出来なければ、手術療法を選択することになります。
保存療法を選択した場合でも、この骨折は上肢の骨折の中でとても繊細で、術者にも高度な技術が求められます。
正確な知識をもって対応しないと、肘の運動制限や変形などをきたしやすい骨折です。
骨片転位(骨のずれ)を伴う上腕骨顆上伸展骨折の特徴
転位(骨のずれ)があるものに対しての注意点を述べます。
骨片転位(骨のずれ)のない場合は、ギプス固定等が行われ、約3週間の固定期間で骨折部も安定してきます。
しかし、中枢片と末梢片のズレ(捻転転移)が多少でも残って骨癒合してまうと、捻転転位は自家矯正が期待できない為、成長障害(内反肘・外反肘)へとつながります。
また、上腕骨顆上骨折に限らない事ですが、受傷後に発熱するお子さんもいらっしゃいます。熱は高熱になる事はなく、数日で収まると思います。
骨折部の断面イラスト
徒手整復後の骨折部のイメージとしては平べったいお皿を縦に2枚重ねた状態です。
骨片転位のある上腕骨顆上骨折を保存療法で治療する場合、術者は上のイラストのように平べったい構造の骨同士を徒手整復であわせて、なおかつ、合わせた骨をずらさないように固定すると言う技術が必要になります。
特に注意しなければならないのは、中枢片と末梢片の間に捻転転位(捻じれ)が残った状態で骨癒合してしまうと、変形や機能障害へと繫がり、そのまま成長障害へとつながっていきます。
下に捻転転位をイメージした写真を載せます。中枢片と書かれた上の紙が正面を向き、下の紙の末梢片が斜めになっている事がわかると思います。
これを骨折部に置き換えて頂くと良いと思います。実際には中枢片と末梢片が両方とも正面を向いていないと捻転転位の残存している状態と言えます。
神経・血管損傷のチェック
骨折部周辺には神経血管が豊富にあるため、細心の注意が必要です。骨折面が鋭利であるとなおさらその危険性が増します。
上のイラストはこの骨折によって損傷や障害を受けやすい神経・血管のイメージを書いてみました。実際はもっと複雑です。
徒手整復前後には、これらの神経・血管損傷がないかどうかのチェックを行います。
合併症につぃて
この骨折は、受傷時の血管損傷や腫脹が強く出ているところに、徒手整復による腫脹の増加、また再転位が起きないように枕子を使って圧迫固定を行う為に、循環障害が起きやすい状況にあります。(再転位を起こさせないために緊迫にならないぎりぎりの固定を行います。)
整復後は、循環障害の兆候がみられたら、昼夜を問わずいつでも連絡するようにご家族にもよく説明します。
循環障害が続くことにより、フォルクマン(Volkmann)拘縮という筋肉・神経の変性や壊死が起きます。
このフォルクマン(Volkmann)拘縮は進行してしまうと不可逆的なものになり、手の機能の損失につながります。なので、その兆候が少しでも見られたら即座に降圧等の処置を受ける必要があります。
過去には上腕骨伸展型骨折に伴う神経麻痺の症例に数例遭遇したことがあります。症状としては手指の運動麻痺と知覚麻痺の症状が残存していました。
そして、この骨折の手術的な方法は、麻酔をかけたうえで骨折の整復を行い、その後、キルシュナー鋼線を皮膚を貫通させて骨に刺して固定をし、骨片を安定させるという方法が一般的なようですが、調べてみると、キルシュナー鋼線による医原性の神経麻痺もあるようです。
上腕骨顆上伸展型骨折の骨癒合状態
どのくらいで骨がつくのかも気になるところだと思います。週ごとによって起きる骨折部の変化について記載します。
- 約7日⇒結合組織性肉芽組織
- 約2週⇒一次性仮骨形成
- 2週以降⇒二次性仮骨形成
ちょっと専門的な言葉での説明となりましたが、2週以降には仮骨形成が進み、骨片転位の心配はほぼなくなります。
よって、2週経過時の二次性仮骨形成時までの期間の管理が非常に重要になります。
変形治癒による成長障害
肘関節は元々、わずかな生理的外反があります。手のひらを身体の前面に向けて肘を伸ばして手を降ろしてみるとわずかな外反を確認できると思います。
これを肘外偏角(cyarrying angle)と言います。
肘外偏角(cyarrying angle)が20度以上を外反肘と言い、0度以上を内反肘(cubitus varus)と言います。
上腕骨顆上骨折の場合の変形は骨癒合後の成長に伴い、徐々に外見上に現れてきます。
これらの外見上の変形がみられてきた場合には、定期的な経過観察・後々の外科的処置が必要になってきます。
日常生活での過ごし方
骨折後は日常生活の過ごし方も変わってくると思います。保存療法を選択した際の入浴や睡眠のとり方について記載します
入浴
浴槽内での転倒を防ぐために、家族による入浴介助が必ず必要になります。
骨片転位の伴う上腕骨顆上骨折は肩関節・体幹部を含めた固定が施されます。よって、固定部分が濡れないように注意し、腰から下を洗って頂くと良いと思います。上半身は、濡れタオルか蒸しタオルでよく拭いて頂くのが良いと思います。
洗髪に関しては洗面所で家族の方が洗うか、事情をお話して理髪店や美容室で洗ってもらうと良いと思います。
睡眠のとり方(寝方)
固定をしていると寝方にも困る事だと思います。睡眠で気をつける事は上腕の回旋が起きないように気を付ける事です。上腕のねじれは再転位につながりますので可能な限り気をつけなくてはいけません。
どのような骨折のタイプなのか、またどのような固定状況なのかで寝方も変わってきます。
基本的には三角巾で手を吊っているのであれば吊ったまま寝て戴くのが良いと思います。その理由としては、体幹部から上腕が離れず、回旋が起きづらいと言う事です。
まとめ
この骨折は手術を選択するにしても保存療法を選択するにしてもどちらも繊細な技術が必要とされます。
全ての先生が取り扱える骨折ではありません。
骨片転位を伴う上腕骨顆上骨折は、保存療法で治療することのできる技術を持った先生と言うのは限られるのではないかと思います。
それは、上腕骨顆上部の構造や骨折部の損傷が大きい事、また後遺障害のリスクが高いことが原因です。
私自身も、小学校2年生の時に右上腕骨顆上伸展型骨折を経験しております。日常生活に支障は無いものの今思えば捻転転移が若干残っております。
そして今でも、男性の先生方により骨片転位を直してもらったときの記憶が残っております。
受傷時から10日以内の以内の過ごし方が肝心で、出来るだけ骨折部が転位しないよう慎重に過ごしていただく必要があります。
いずれにしてもとても繊細な骨折だと言うことを念頭に置いていただき、患部の状態を第一優先にして頂くとよいと思います。
ご質問などあれば、まずはお気軽にご相談ください。