転倒して肩を強打し、「上腕骨外科頚骨折(じょうわんこつげかけいこっせつ)」または「上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)」と診断され、強い痛みと動かせない腕に、大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。

といった疑問や心配が尽きないことでしょう。
しかし、ご安心ください。

上腕骨外科頚骨折は、たとえ骨のズレ(転位)があったとしても、適切な治療(整復・固定)さえできれば、多くは手術をせずに「保存療法」で回復が期待できる骨折です。
この記事では、上腕骨外科頚骨折の保存療法における当院の考え方や、具体的な治療の流れ、リハビリ、日常生活での注意点まで、専門的な内容を分かりやすく解説します。
茨城県牛久市、龍ヶ崎市、阿見町、土浦市周辺で、肩の骨折でお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
Contents
この記事のポイント
手術だけが選択肢ではない
上腕骨外科頚骨折は、たとえ骨にズレ(転位)があったとしても、適切な「整復(骨を元の位置に戻す)」と「固定」さえできれば、多くは手術をせずに保存療法での回復が期待できます。治療の質が回復を左右する
正確な診断(超音波エコーとレントゲン)、経験豊富な施術者による丁寧な整復、そして骨折タイプに合わせたオーダーメイドの固定。この一連のプロセスが、後遺症を残さないための鍵となります。「待つ」だけではない積極的なアプローチ
受傷当日から微弱電流治療器(ノーマライザ)などを用いた物理療法を行い、骨の癒合を積極的に促進します。これにより、回復をサポートします。客観的指標に基づく最適な固定期間
「3週間だから外す」のではなく、超音波エコーで骨の修復(外仮骨の形成)を実際に確認してから固定を外したり、軽くしたりします。これにより、関節が固まってしまうリスクを最小限に抑え、最適なタイミングでリハビリに移行します。段階的なリハビリと生活の工夫が大切
固定が取れた後は、振り子運動などの安全なリハビリから始め、焦らず段階的に進めることが重要です。また、入浴や睡眠時の注意点を守ることも、スムーズな回復を支えます。
まずは知っておきたい「上腕骨外科頚骨折」の基本
そもそも「上腕骨外科頚骨折」とは、どのような骨折なのでしょうか。原因や症状を正しく理解することが、不安解消の第一歩です。
肩の付け根、腕の骨の上部でおこる骨折
上腕骨は、肩から肘までをつなぐ一本の長い骨です。その上部、肩関節に近い部分を「上腕骨近位端」と呼びます。外科頚とは、その中でも特に骨折が起こりやすい、少し細くなった部分を指します。

この骨折は、骨がもろくなる骨粗鬆症を背景とした高齢者に特に多く発生します。 転倒した際に手や肘をつく、あるいは肩を直接ぶつけるといった比較的軽い外力で起こることが大半です。
転倒の仕方で変わる2つの骨折タイプ(外転型・内転型)
同じ上腕骨外科頚骨折でも、転倒した時の腕の状態によって、骨のズレ方が異なり、「外転型」と「内転型」の2つのタイプに分けられます。
外転型骨折: 脇が開いた状態(腕を外に広げた状態)で手や肘をついて発生します。
内転型骨折: 脇が閉じた状態(腕を体につけた状態)で手や肘をついて発生します。
このタイプによって、整復(骨のズレを元の位置に戻すこと)の方法や固定の角度が変わるため、正確な判断が重要になります。
主な症状 – 強い痛み、腫れ、そして特徴的な皮下出血
骨折した直後から、以下のような症状が現れます。
骨折部の強い痛みと圧痛(押したときの痛み)
肩関節周辺の急激な腫れ
肩を動かすことができない(可動域制限)
時間の経過とともに、腕から胸、脇腹にかけて広がる広範囲の皮下出血
特に、この広範囲の皮下出血は上腕骨外科頚骨折に特徴的な症状の一つです。腕を動かせないほどの強い痛みと腫れがある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
▼もっと詳しく知りたい方へ
「この症状は、ただの打撲?それとも骨折?」と迷われている方のために、骨折のサインや応急処置について詳しく解説した記事もご用意しています。
▼ご高齢のご家族が骨折された方へ
この骨折は骨がもろくなるご高齢の方に特に多く見られます。ご家族として知っておくべきサポートのポイントや注意点をまとめた記事もございますので、ぜひご覧ください。→ 『高齢者の上腕骨骨折|家族が知っておくべきサポートと注意点』を読む
当院の保存療法に対する考え方と具体的な治療法
当院では、上腕骨外科頚骨折の多くは、身体への負担が少ない保存療法で対応可能だと考えています。手術という選択肢もありますが、それが本当に必要なのかを的確に見極め、可能な限り身体を傷つけない方法で回復を目指すことが重要です。
治療のプロセス:的確な診断からオーダーメイドの固定まで
治療の第一歩は、骨の状態を正確に把握することです。当院ではまず超音波エコー検査を用い、骨のズレ(骨片転位)の方向や程度を立体的に、かつ詳細に観察します。さらに、提携する顧問医にてレントゲン検査を受けていただくことで、医師による確定診断を得て、その後の施術に対する同意のもとで安全に治療を進めます。
これらの的確な診断に基づき、骨片転位が認められる場合は徒手整復(手で骨を元の位置に戻すこと)を行います。
後の回復を左右するこの重要な整復は、同業者向けの技術セミナーで実技指導の経験も豊富な院長が、責任をもって行います。
整復した骨を正しい位置で安定させるために固定を行いますが、当院では、ギプスではなく、シーネや副子を用いた柔軟な固定を選択します。これには以下のメリットがあります。
腫れの状態に合わせて固定の調整が可能
皮膚を清潔に保ちやすい
関節が過度に固まるのを防ぎやすい
そして、最も重要な点として、骨折のタイプ(外転骨折・内転骨折)によって固定の仕方を変えています。 例えば、外転型骨折では腕が内側に入りすぎないよう腋窩枕子(えきかちんし)というクッションを脇に挟んで適切な角度を保つなど、一人ひとりの骨折の状態に合わせた固定を行います。
▼もっと詳しく知りたい方へ
なぜギプスではなく、シーネや副子などを用いるのか。骨折のタイプによって固定方法がどう変わるのか。当院の固定に対する考え方をより深く解説した記事はこちらです。→ 『上腕骨外科頚骨折の「固定」について|ギプスを使わない方法とその理由』を読む
骨癒合を促すための積極的な物理療法
当院では、ただ固定して骨がつくのを待つだけではありません。受傷したその日から、骨癒合を促進するための積極的なアプローチを開始します。
具体的には、微弱な電流を用いて組織の回復をサポートする物理療法(定電流治療器:ノーマライザなど)を行います。この施術は、骨の自然な治癒プロセスをサポートし、回復を促すことを目的としています。
この早期からの介入は、骨癒合を促すだけでなく、患部の腫れや痛みを和らげ、周辺の筋肉が硬くなるのを防ぐ効果も期待できます。固定期間中から適切にアプローチすることで、よりスムーズな回復と、その後のリハビリへの移行を目指します。
保存療法が第一選択肢となる理由【米国の最新動向と基本原則】
なぜ保存療法を重視するのか。それは、手術には感染症や神経損傷といったリスクがゼロではないからです。この「可能な限り保存療法を選択する」という考え方は、実は高齢化が進むアメリカの最新の治療トレンドとも一致しています。
2010年から2019年にかけて行われたアメリカの大規模な調査では、65歳以上の高齢者の上腕骨近位端骨折のうち、80%以上が手術をしない保存療法で治療されていることが報告されています。さらに注目すべきは、この10年間で保存療法が選択される割合は80%から85%に増加している点です。
また、手術が必要と判断された場合でも、その内容は大きく変化しています。従来のプレート固定や人工骨頭置換術は減少し、より複雑な骨折に対応しやすい**反転型人工肩関節置換術(RSA: Reverse Shoulder Arthroplasty)**という比較的新しい術式が飛躍的に増加しています。
これらの事実は、「まず的確に診断し、可能な限り身体への負担が少ない保存療法で回復を目指す」という当院の治療方針を強く裏付けるものです。
そして、この方針は世界的に信頼されている医学的な基本原則にも合致しています。
しばしば、骨折した骨を正常な位置に戻さなければならない場合があります(整復または復元)。(中略)骨が正しい位置に戻ったら、損傷部を動かさないように固定する必要があります。固定を行うと、周辺の組織に対するさらなる損傷が防がれ、痛みを軽減し治癒を助けます。
固定期間の目安は約3〜5週間
固定期間は骨折の状態や年齢によって異なりますが、一般的には3〜5週間が目安です。しかし、固定が長すぎると逆に関節が固まってしまい(関節拘縮)、その後のリハビリが難しくなるため、当院では期間だけで画一的に判断することはありません。
当院では、定期的に超音波エコーで骨折部を観察し、骨癒合のサインである「外仮骨(がいかこつ)」の形成を確認します。 この外仮骨が確認でき次第、固定をより軽いものへ変更、あるいは除去し、最適なタイミングで痛みのない範囲から運動療法を開始していきます。客観的な指標に基づいて判断することで、不要な長期固定を防ぎ、スムーズな回復へとつなげます。
【実際の症例紹介】牛久市在住・60代女性のケース
背景: 自転車で走行中に転倒。脇を開いた状態で手をつき、肩に激痛が走りました。
来院時の症状: 肩の強い痛みと腫れ、腕から胸にかけての皮下出血があり、腕を全く動かせない状態でした。超音波エコー検査で骨のズレを伴う外転型の上腕骨外科頚骨折と判断しました。
処置: 提携医によるレントゲン検査での確定診断後、同意を得て整復操作を実施。その後、腋窩枕子とシーネを用いて固定しました。

経過:
翌日〜: 患部の皮膚管理、微弱電流治療(ノーマライザ)、周辺筋肉のマッサージを開始。
4週後〜: 骨の安定性が確認できたため、痛みのない範囲でごく軽い振り子運動を開始。
5週後: 固定を除去。
固定除去後〜: 本格的なリハビリ(物理療法、運動療法、BFI療法など)を開始し、関節の動きと筋力の回復を図りました。
この方の場合、適切な固定と計画的な施術により、日常生活に支障のない範囲まで機能を回復することができました。
後遺症を残さないためのリハビリテーション
固定が取れてからが、本格的な機能回復へのスタートです。上腕骨外科頚骨折のリハビリでは、焦らず、痛みに合わせて段階的に進めることが何よりも重要です。
まずは「振り子運動」から

リハビリの第一歩は、腕の力を抜き、重力を利用してゆっくりと腕を前後に振る「振り子運動」からです。 これは、固まりがちな肩関節に、負担をかけずに初期の動きを取り戻すための非常に重要な運動です。
大切なのは「痛みが出ない範囲で、リラックスして行う」ことです。当院では、正しい運動の方法を丁寧にご指導します。
専門家と共に行う運動療法
ご自身で行う運動と並行して、施術者による他動運動(施術者が腕を動かす)や、滑車を使った運動などを取り入れ、徐々に関節の可動域を広げていきます。骨の癒合状態や痛みの程度を判断しながら進めるため、安心してリハビリに取り組んでいただけます。
リハビリの段階的な目安は以下の通りです。
| 期間の目安 | リハビリ内容 |
| 〜4週 | 固定を継続。患部外の運動(手指のグーパー運動、手首や肘の曲げ伸ばしなど) |
| 4〜6週 | 固定を除去し、振り子運動を開始。痛みのない範囲での自動介助運動(反対の手で支えて動かす)。 |
| 6週〜 | 自動運動(自分の力で動かす)の範囲を広げる。滑車運動や壁を使った運動など。 |
| 8週〜 | 軽い負荷をかけた筋力強化訓練(ゴムチューブなどを使用)。より実践的な動きの練習。 |
※上記はあくまで一般的な目安であり、骨の癒合状態や痛みの程度によって内容は異なります。
▼もっと詳しく知りたい方へ
リハビリは、骨の回復段階に合わせた適切なプログラムを組むことが非常に重要です。ご自宅でも安全に取り組める時期別の詳細なリハビリメニューを解説した、こちらの記事もぜひ参考にしてください。→ 『【リハビリ特化型】上腕骨外科頚骨折の機能回復プログラム|時期別のセルフケア完全ガイド』を読む
日常生活での注意点とセルフケア
固定期間中やリハビリ期間中は、日常生活においてもいくつかの注意点があります。安全に過ごし、回復を妨げないためのポイントをご紹介します。
入浴について
固定期間中の入浴は、転倒や骨の再転位(再びズレること)のリスクがあるため、注意が必要です。浴槽に浸かるのは、骨の状態が安定してからの方が望ましいでしょう。
それまでは、涼しい部屋で過ごしたり、タオルで体を拭いたりすることをお勧めします。ご家族の介助が得られるなど、安全が確保できる状況であれば、シャワー浴や美容院での洗髪は可能です。
睡眠時の姿勢について
仰向けや横向きで寝ると、痛みが出たり、固定が不安定になったりすることがあります。そのような場合は、ソファーや座椅子に寄りかかるように、少し上半身を起こした姿勢で休むと楽なことが多いです。クッションや座布団をうまく使い、骨折した腕が安定する楽な姿勢を見つけることが大切です。
▼もっと詳しく知りたい方へ
入浴や睡眠のほかにも、着替えや食事など、片腕が不自由な生活には様々な工夫が必要です。具体的なアイデアや便利グッズをまとめた記事もご用意しています。→ 『【日常生活特化型】肩を骨折した時の暮らしの工夫|入浴・睡眠・着替えの注意点』を読む
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 骨折の腫れや痛みは、いつまで続きますか?
A1. 強い痛みや腫れは、受傷後1〜2週間がピークで、その後徐々に落ち着いてきます。ただし、完全に痛みがなくなるまでには数ヶ月かかることもあります。痛みの感じ方には個人差が大きいですが、日常生活での痛みが軽減してくるのが一つの目安です。
Q2. 高齢者でも骨はちゃんとつきますか?
A2. ご高齢の方でも、適切な固定と管理を行えば、骨は癒合(ゆごう:骨がつくこと)します。ただし、骨粗鬆症がある場合などは癒合に時間がかかることもあります。当院の物理療法のように、骨癒合をサポートするアプローチも有効です。
Q3. 固定が三角巾だけなのですが、大丈夫でしょうか?
A3. 骨のズレがほとんどない場合は、三角巾やバストバンドのみで固定することもあります。しかし、骨折のタイプやズреの程度によっては、より安定した固定が必要なケースもあります。現在の治療方針に不安がある場合は、セカンドオピニオンを求めるのも一つの方法です。
Q4. リハビリは痛くてもやった方がいいですか?
A4. いいえ、痛みを我慢して無理に動かすのは逆効果です。炎症を強めたり、回復を遅らせたりする可能性があります。リハビリは、あくまで「痛みのない、あるいは心地よいと感じる範囲」で行うことが原則です。
Q5. 接骨院で骨折は見てもらえますか?
A5. はい、接骨院では骨折や脱臼、捻挫などの応急処置やその後の施術が可能です。ただし、初回の応急処置を除き、骨折の治療を継続するには医師の同意が必要です。当院では、提携する医療機関と連携し、患者さんが安心して治療に専念できる体制を整えています。
まとめ:適切な初期対応と計画的なリハビリが回復への近道です
上腕骨外科頚骨折は、特に高齢者にとって、生活の質を大きく左右する可能性のある怪我です。しかし、骨のズレが大きくなければ、多くの場合、手術をせずに改善が見込める骨折でもあります。
重要なのは、骨折のタイプを正確に見極め、適切な整復と固定を行い、骨の回復段階に合わせて計画的にリハビリを進めることです。変形したまま骨がついてしまうと、肩の動きに制限が残り、後遺症として日常生活に支障をきたす可能性があります。
強い痛みや今後の生活にご不安を抱えていることと存じます。この記事が、上腕骨外科頚骨折に関する正しい知識を得て、前向きに治療に取り組むための一助となれば幸いです。
茨城県牛久市、龍ヶ崎市、阿見町、土浦市周辺で、肩の骨折やその後のリハビリにお困りの際は、ぜひ一度、牛久市の蛯原接骨院へご相談ください。
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曜日 午前 午後 月~金 8:00~12:00 15:00~20:00 土 8:00~12:30 休診 日 休診 休診
アクセス: JR常磐線「牛久駅」徒歩5分
駐車場: 5台分有り
【監修】
院長:蛯原 吉正(EBIHARA YOSHIMASA)
資格:柔道整復師
痛みのある箇所だけに対処するのではなく、なぜそこに痛みが生じているのか、その背景にある本当の原因を追究することを信条としています。
一人ひとりの身体の状態や生活習慣と真摯に向き合い、不調が再発しにくい身体づくりをサポートすること。そして、来院された方が不安なく、健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることを目指しています。
より詳しい経歴やご挨拶については、こちらのページをご覧ください。
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【免責事項】
本ブログ記事は、上腕骨外科頚骨折に関する情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。症状や治療方針については、必ず医師や専門家の診断と指示に従ってください。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当院では一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

















「手術が必要なのでは?」
「後遺症は残らないだろうか?」
「元の生活に戻れるのか?」