【野球・テニス選手向け】投球・サーブ時の「肩の痛み」再発予防ガイド

ボールを投げる、サーブを打つ。その瞬間、肩に走る鋭い痛み…。

休んでもまた繰り返すその痛みは、選手のパフォーマンスだけでなく、競技への情熱さえも奪いかねない深刻な問題です。

その繰り返す肩の痛みの根本原因は、実は痛む肩そのものではなく、その土台である『肩甲骨』と、身体の回旋エンジンである『胸椎(背中の背骨)』の動きの悪さにあることが、最新の研究で明らかになっています。

つまり、肩は、うまく動かない他の部分の仕事を無理やり肩代わりさせられた結果、悲鳴を上げているにすぎないのです。

この記事では、なぜ肩の痛みが繰り返されるのか、その科学的なメカニズムを解き明かし、痛みの根本原因にアプローチするための、具体的な再発予防の3つの鍵を写真付きで解説します。

なぜ痛む?肩ではなく「肩甲骨」と「胸椎」が“真犯人”である理由

腕を振る動作は、肩関節だけで行われているわけではありません。それは、下半身から体幹、そして腕へと力が連なっていく「運動連鎖」の最終段階です。この連鎖の中で、特に重要なのが「肩甲骨」と「胸椎」です。

部位役割機能が低下すると…例えるなら…
肩甲骨肩関節の「土台」。腕の動きに合わせて滑らかに動く。土台がグラつき、肩関節が不安定に。インナーマッスルに過剰な負担がかかる。不安定な地面に立つ大砲
胸椎(背骨)身体をひねる「回旋エンジン」。投球・サーブのパワーを生み出す。エンジンが回らない分、肩関節が無理やりひねられ、関節や靭帯を痛める。回らない椅子で、上半身だけで振り向く

再発を防ぐ!肩のコンディションを整える3つの鍵

痛みの根本原因が分かれば、対策は明確です。肩に負担をかけない、しなやかで力強い「運動連鎖」を取り戻しましょう。

鍵1:肩甲骨の“滑り”を取り戻すエクササイズ

まずは、土台である肩甲骨が、あばら骨の上をスムーズに滑る感覚を再教育します。

やってみよう!「ウォールスライド」

  1. 壁の前に立ち、両腕を「W」の形になるように壁につけます。肘と手の甲を壁に押し当てるのがポイントです。

  2. 肘と手の甲を壁から離さないように意識しながら、ゆっくりと腕を「Y」の形になるまで上げていきます。

  3. この時、肩をすくめないように、肩甲骨が下がりながら外に開く動きを感じましょう。

  4. ゆっくりと元の「W」の形に戻します。これを10回×2セット行います。

鍵2:胸椎の“回旋エンジン”を再始動させるストレッチ

次に、固まってしまった身体の回旋エンジンを、再びスムーズに回るようにします。

やってみよう!「サイドラインソラシックローテーション」

  1. 横向きに寝て、両膝を90度くらいに曲げ、両腕は前に伸ばして手のひらを合わせます。

  2. 下の腕は動かさず、上の腕で大きな円を描くように、ゆっくりと天井を通り、反対側の床を目指して上半身を開いていきます。

  3. この時、**顔と胸が腕と一緒に天井を向くように、背骨の“ねじれ”**を意識しましょう。

  4. ゆっくりと元の位置に戻ります。これを左右それぞれ10回行います。

鍵3:下半身からの“力の連鎖”をスムーズにする

投球・サーブのパワーは、地面から生まれます。下半身と上半身を連動させる感覚を養います。

やってみよう!「ランジツイスト」

  1. 足を前後に大きく開いて、ランジの姿勢をとります。

  2. 両手を胸の前で組み、身体を安定させます。

  3. 息を吐きながら、前に出している脚の側へ、上半身をゆっくりとひねります。

  4. この時、お尻から脇腹、胸へと、下半身からの力が連なっていくのを感じましょう。これを左右10回ずつ行います。

理学療法の専門的な研究においても、野球選手の肩の痛みは、肩関節そのものだけでなく、土台となる肩甲骨の動きの異常(Scapular Dyskinesis)が、肩への過剰なストレスを生み出す大きな要因であることが報告されています。

[引用元:「野球選手の肩関節障害の病態」]

投球・サーブ時の肩の痛みに関するよくある質問(Q&A)

Q1. 痛いときは、アイシングをした方が良いですか?
A1. 投げた直後など、熱っぽさやズキズキとした痛み(急性期の炎症)がある場合は、アイシングで冷やすのが有効です。一方で、慢性的な鈍い痛みや、動きの悪さを感じる場合は、温めて血行を良くした方が楽になることもあります。痛みの種類によって使い分けることが大切です。

Q2. 肩のインナーマッスルのトレーニングだけでは不十分ですか?
A2. インナーマッスルの強化は非常に重要です。しかし、それはいわば「大砲を安定させるネジを締める」ようなもの。大砲が乗っている「土台(肩甲骨)」がグラグラだったり、大砲を回す「土台の回転盤(胸椎)」が錆びついていては、いくらネジを締めても根本的な解決にはなりません。土台の動きを改善するエクササイズと並行して行うのが理想的です。

Q3. 痛みがあっても、投げ込みで肩を作るべきですか?
A3. いいえ、痛みは身体からの明確な危険信号です。痛みを我慢して投げ続けることは、症状を悪化させ、回復を長引かせるだけでなく、長期的な選手生命を脅かすことにもつながりかねません。まずは痛みの原因となっている動きの悪さを改善し、痛みのない範囲で徐々に投球を再開することが、結果的に復帰への近道となります。

まとめ:肩を守る本当の鍵は、肩の外にある

繰り返す肩の痛みは、あなたの投げ方や身体が弱いからではありません。それは、身体の他の部分がうまく働いていないことを、肩が教えてくれているサインなのです。

そのサインに気づき、肩だけに注目するのをやめて、肩甲骨や背骨、そして全身のつながりに目を向けること。今回ご紹介した3つの鍵が、あなたを痛みの不安から解放し、よりパワフルでしなやかな腕の振りを手に入れるための、大きな助けとなるはずです。

▼肩の問題は、全身の「運動連鎖」の結果です

今回取り上げた肩の痛みは、まさに全身の「運動連鎖」の乱れが引き起こす代表例です。なぜ怪我が繰り返されるのか、その根本的な原因と身体全体のつながりについては、こちらの中心記事で詳しく解説しています。

→ 【スポーツ障害】なぜ、怪我はトレーニングをしない身体を作る。アスリート向け体幹トレーニング実践ガイド

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院長:蛯原 吉正(EBIHARA YOSHIMASA)
資格:柔道整復師

痛みのある箇所だけに対処するのではなく、なぜそこに痛みが生じているのか、その背景にある本当の原因を追究することを信条としています。

一人ひとりの身体の状態や生活習慣と真摯に向き合い、不調が再発しにくい身体づくりをサポートすること。そして、来院された方が不安なく、健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることを目指しています。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。症状が改善しない、または悪化する場合には、速やかに専門の医療機関を受診してください。