バスケットボール選手に多い「ジャンパー膝」。着地衝撃をコントロールする身体の使い方

高く跳び、ゴールを決める。

その華やかなプレーの裏で、着地のたびに膝に走る鋭い痛み…。

バスケットボール選手にとって、「ジャンパー膝(膝蓋腱炎)」はパフォーマンスを著しく低下させる、深刻な問題です。

この繰り返す痛みの根本原因は、ジャンプの踏み切りよりも『着地』の衝撃を、膝という一点だけで受け止めてしまっていることにあります。そして、本来その衝撃を吸収すべき身体最大のクッションである『お尻』と『太もも裏』の筋肉が、うまく使えていないことが、その背景に隠されています。

この記事では、ジャンパー膝がなぜ起こるのか、その科学的なメカニズムを解き明かし、膝への負担を劇的に減らすための、具体的な「着地衝撃をコントロールする身体の使い方」を、写真付きで徹底解説します。

なぜ痛む?ジャンパー膝のメカニズム

ジャンパー膝の正体は、膝のお皿の下にある**「膝蓋腱」**という部分の、使いすぎによる微細な損傷と炎症です。ジャンプと着地を何百、何千回と繰り返すバスケットボール選手に非常に多いため、この名前で呼ばれています。

悪い着地(膝への負担大)良い着地(全身で衝撃吸収)
衝撃を受ける場所膝に集中
身体の動き膝だけが曲がる「棒立ち着地」
筋肉の使い方太ももの前側ばかりが働く

痛みの“真犯人”は膝にはいない?3つの根本原因

最新の研究では、ジャンパー膝の根本原因は、単に「跳びすぎ」だからではなく、衝撃を吸収できない非効率な身体の使い方にあることが分かっています。

原因1:膝だけで受け止める「棒立ち着地」

着地の際、股関節(お尻)を十分に曲げず、膝だけを浅く曲げて着地してしまうフォームです。これにより、地面からの衝撃がダイレクトに膝蓋腱に突き刺さり、ダメージが蓄積します。

①深くお尻を引いて着地する良いフォーム 

②膝が前に出て上半身が立ったまま着地する「棒立ち着地」の悪いフォーム

原因2:衝撃吸収の主役!「お尻と太もも裏」の“サボり癖”

本来、着地の衝撃を吸収する主役は、人体で最も大きな筋肉である**お尻の筋肉(臀筋群)と、ブレーキ役を担う太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)**です。これらの筋肉がうまく使えていないと、衝撃吸収の仕事を全て、小さな膝蓋腱が肩代わりすることになってしまいます。

原因3:股関節や足首の硬さが、膝への負担を増やす

股関節や足首の動きが硬いと、着地時に身体全体がスムーズに沈み込むことができません。動くべき関節が動かない分、そのしわ寄せが全て膝関節に集中し、過剰な負担をかけてしまうのです。

衝撃をコントロール!膝を守る3つの身体の使い方

痛みのループから抜け出すために、膝に負担をかけない、衝撃吸収の達人を目指しましょう。

ポイント1:「お尻から着地する」意識を、脳にインプットする

まずは、正しい着地の形を、脳と身体に覚えさせることが最優先です。

やってみよう!「ボックスドロップ」

  1. 15〜30cm程度の低い、安定した台やボックスの上に立ちます。

  2. そこから軽く前に下り、両足で着地します。

  3. この時、**「お尻から、見えない椅子に座る」**ように、股関節を深く曲げて着地します。膝がつま先より前に出ないように注意しましょう。

  4. 「音を立てない、忍者のような着地」を意識することで、衝撃吸収の感覚が養われます。これを10回繰り返します。

ポイント2:眠っている「お尻と太もも裏」を目覚めさせる

衝撃吸収の主役となる筋肉たちに、スイッチを入れます。

やってみよう!「ヒップリフト(ブリッジ)」

  1. 仰向けに寝て、膝を90度くらいに曲げ、足は腰幅に開きます。

  2. 息を吐きながら、お尻を「キュッ」と締める意識で、床から持ち上げます。

  3. 肩から膝までが一直線になったところで3秒キープします。腰を反らせすぎないように注意しましょう。

  4. ゆっくりとお尻を下ろし、これを15回×2セット行います。

ポイント3:太もも前側の「使いすぎ」をリセットする

ジャンパー膝の選手は、太ももの前側(大腿四頭筋)が過剰に緊張しているケースがほとんどです。この筋肉を優しくストレッチし、リセットしてあげましょう。

やってみよう!「大腿四頭筋ストレッチ」

  1. 横向きに寝て、上の脚の足首を持ちます。

  2. かかとをゆっくりとお尻に引き寄せ、太ももの前側が心地よく伸びるのを感じながら30秒キープします。

大学バスケットボール選手を対象とした国内の研究においても、膝に痛みを抱える選手は、健康な選手に比べて、着地時に股関節や膝を十分に曲げずに体幹が立ったまま着地する、いわゆる「硬い着地」をしている傾向が報告されています。このことは、膝だけでなく、体幹や股関節を含めた全身の連携した動きが、膝への負担を減らす上でいかに重要であるかを示唆しています。

[引用元:科学研究費助成事業 研究成果報告書「ジャンパー膝に対する力学的負荷を用いた新たな運動療法の開発」]

ジャンパー膝に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 膝用のサポーター(ジャンパー膝バンド)は有効ですか?
A1. 膝蓋腱を圧迫するバンドは、腱への振動を抑え、一時的に痛みを和らげる効果が期待できます。痛みが強く、練習を休めない時の「応急処置」としては有効です。しかし、根本原因である着地フォームや筋力バランスを解決するものではないことを理解しておく必要があります。

Q2. 痛いときは、太もも前のストレッチをどんどんやるべきですか?
A2. 炎症が起きている時に、痛みの原因となっている太もも前(膝蓋腱の付け根)を過度にストレッチすると、かえって炎症を悪化させる可能性があります。まずは安静にし、ストレッチを行う場合は、今回ご紹介したような優しいストレッチや、お尻・太もも裏のストレッチを優先しましょう。

Q3. どんなバッシュを選べば良いですか?
A3. 高いクッション性は着地衝撃を和らげる助けになりますが、それ以上に**「かかとの安定性(ヒールカウンター)」**が重要です。着地時にかかとがグラつくと、そのブレが膝にまで伝わってしまいます。自分の足にフィットし、かかとがしっかりホールドされるシューズを選びましょう。

まとめ:着地の技術を制する者が、ジャンパー膝を制する

繰り返すジャンパー膝の痛みは、気合や根性で乗り越えるものではありません。それは、あなたの身体が発している「着地の仕方が、膝に負担をかけすぎていますよ」という、極めて重要なサインなのです。

そのサインに耳を傾け、痛む膝から少し視点を上げて、お尻から着地する、全身を使った衝撃吸収の技術を身につけること。それこそが、痛みのループから抜け出し、より高く、より安全に跳び続けるための、最も賢明な道すじです。

▼膝の問題は、全身のバランスの乱れから。根本原因を知りたい方へ

ジャンパー膝の根本原因である「身体の使い方」の問題は、全身の「かばう動き(代償動作)」につながり、様々な不調を引き起こします。なぜ怪我が繰り返されるのか、その全体像と本質的なアプローチについて、こちらの中心記事で詳しく解説しています。

→ 【スポーツ障害】なぜ、怪我はトレーニングをしない身体を作る。アスリート向け体幹トレーニング実践ガイド

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院長:蛯原 吉正(EBIHARA YOSHIMASA)
資格:柔道整復師

痛みのある箇所だけに対処するのではなく、なぜそこに痛みが生じているのか、その背景にある本当の原因を追究することを信条としています。

一人ひとりの身体の状態や生活習慣と真摯に向き合い、不調が再発しにくい身体づくりをサポートすること。そして、来院された方が不安なく、健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることを目指しています。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。症状が改善しない、または悪化する場合には、速やかに専門の医療機関を受診してください。