肩の骨折の固定というと、多くの方が腕全体を覆う、硬くて重いギプスを想像するかもしれません。あるいは、三角巾とバンドだけの固定で「本当にこれだけで大丈夫?」と不安に感じている方もいらっしゃるでしょう。
ギプスが不便で生活しづらい、簡易的な固定で本当に治るのか心配、など、骨折の固定方法に関する悩みや疑問は尽きないものです。
この記事では、骨折治療の専門家として、なぜ固定が必要なのかという基本から、様々な固定方法のメリット・デメリット、そして当院がなぜギプスを使わない固定を選択するのか、その理由を詳しく解説します。
この記事のポイント
固定の目的は「安定」と「痛みの軽減」
骨が正しい位置でつくのを助け、痛みを和らげることが固定の最も重要な目的です。固定方法は一つではない
治療法はギプスだけではありません。シーネや副子、三角巾など、骨折の状態に応じて様々な選択肢があります。ギプスを使わない理由は「3つのメリット」
当院がシーネや副子を選ぶのは、「腫れの変化に対応しやすい」「皮膚を清潔に保てる」「関節が固まるのを防ぎやすい」という明確な利点があるためです。骨折のタイプで固定法は変わる
上腕骨外科頚骨折には「外転型」「内転型」があり、骨のズレる方向が違うため、それぞれに最適な固定の角度や方法があります。
まずは知りたい、骨折固定の「目的」
なぜ、骨折の治療に「固定」が不可欠なのでしょうか。その目的は、大きく分けて2つあります。
骨折部を安定させ、骨癒合を促す
折れた骨が動いてしまうと、いつまでたってもくっつきません。骨を正しい位置で動かないように安定させることで、骨が再生し、しっかりと癒合(ゆごう:骨がつくこと)するための環境を整えます。痛みを和らげ、さらなる損傷を防ぐ
固定することで、折れた骨の端が動いて神経や血管、筋肉などを傷つけるのを防ぎます。また、患部が動かなくなることで、痛みを大幅に軽減することができます。
この2つの目的を達成するために、様々な固定方法が存在します。
固定方法の種類と比較|ギプス・シーネ・三角巾
代表的な固定方法について、それぞれのメリットとデメリットを客観的に比較してみましょう。
| 固定方法 | 特徴・メリット | デメリット |
| ギプス固定 | ・固定力が非常に高い・完全に覆うため、安心感がある | ・取り外しができない・腫れの変化に対応しづらい・蒸れやかゆみ、皮膚トラブルが起きやすい・重い |
| シーネ/副子固定 | ・取り外しが可能(専門家の指示のもと)・腫れの状態に合わせて調整できる・皮膚を清潔に保ちやすい<br>・ギプスに比べて軽い | ・患者さん自身で外せてしまうため、自己管理が求められる |
| 三角巾/バンド固定 | ・非常に軽量で動きやすい・着替えなどが比較的楽 | ・固定力は弱い・骨のズレ(転位)が大きい骨折には不向き・痛みが強い場合は不安を感じやすい |
当院がギプスを使わない3つの理由
上記の比較を踏まえ、当院では上腕骨外科頚骨折の治療において、原則としてギプスを用いず、シーネや副子、そして三角巾などを組み合わせた固定を選択しています。その理由は、以下の3つの大きなメリットがあるからです。
理由1:腫れ(腫脹)の変化に対応しやすい
骨折した直後は、患部が大きく腫れます。そして、回復とともにその腫れは徐々に引いていきます。完全に腕を覆ってしまうギプスでは、腫れがピークの時に巻くと、腫れが引いた後に隙間ができて固定が緩んでしまいます。逆に、腫れる前に巻くと、内部の圧が高まりすぎて血行障害などを起こすリスクがあります。
取り外しや調整が可能なシーネや副子なら、日々の腫れの変化に合わせて最適な固定状態を保つことができます。
理由2:皮膚を清潔に保ち、衛生管理がしやすい
特に夏場や長期間の固定では、ギプスの中が蒸れてしまい、かゆみや悪臭、皮膚のただれといったトラブルが起こりがちです。シーネや副子であれば、専門家が状態を確認する際に皮膚を拭いて清潔に保つことができ、衛生的な環境で回復を目指せます。
理由3:関節拘縮(かんせつこうしゅく)の予防につながる
関節拘縮とは、長期間動かさないでいることで関節が固まってしまい、動きにくくなる状態のことです。特に肩関節は拘縮を起こしやすく、一度固まるとその後のリハビリが非常に大変になります。
シーネや副子による固定は、ギプスに比べて肩関節への過度な固定を避けられるため、関節拘縮のリスクを管理しやすいという利点があります。
【専門家が解説】なぜ骨折タイプで固定法を変えるのか?
さらに専門的な話になりますが、当院では上腕骨外科頚骨折の**「タイプ」**によっても固定方法を細かく変えています。この骨折には、主に「外転型」と「内転型」があります。
<画像プロンプト: シンプルな人体の線画イラストを2つ並べる。左は「外転型骨折」、右は「内転型骨折」とキャプション。左のイラストでは、腕が外側に開くように折れ、脇に隙間ができている様子を矢印で示す。右のイラストでは、腕が内側に閉じるように折れている様子を矢印で示す。>
外転型骨折: 折れた腕の骨が、外側(脇が開く方向)にズレやすいタイプです。
内転型骨折: 折れた腕の骨が、内側(脇が閉まる方向)にズレやすいタイプです。
例えば外転型骨折の場合、ただ腕を体につけて固定するだけでは、骨がさらに内側に入り込んでズレが大きくなってしまいます。そのため、腋窩枕子(えきかちんし)という特殊なクッションを脇に挟み、適切な角度を保って固定する必要があります。
このように、骨のズレ方や筋肉に引っ張られる方向まで計算し、一人ひとりに最適なオーダーメイドの固定を行うことが、後遺症を残さないための重要なポイントです。

機能性を重視する世界の治療トレンドとエビデンス
当院がシーネや副子による調整可能な固定を選択し、超音波エコーで回復状態を確認しながら最適なタイミングで運動を開始するアプローチは、実は世界的な治療のトレンドと一致しています。
特に米国などでは、上腕骨外科頚骨折に対して、関節機能の温存を非常に重視します。そのため、重いギプスで長期間完全に固定する方法よりも、スリング(三角巾)などで腕を支えつつ、専門家の管理のもとで段階的に肩を動かしていく治療が主流です。
この考え方は、米国で絶大な権威を持つ米国整形外科学会(AAOS)の患者向け情報にも明確に示されています。
骨片がずれていない(非転位型)場合、医師は手術をせずに骨折を治療する可能性が高いでしょう。骨が治癒する間、骨を所定の位置に保持するためにスリングや肩固定具を装着します。(中略)医師は、腕と肩を動かし始めても安全な時期を指示します。あまりに早く動かし始めると骨がずれる可能性がありますが、長く待ちすぎると肩のこわばり(stiffness)につながる可能性があります。
この引用が示すように、重要なのは「いつから動かし始めるか」というタイミングの見極めです。
当院がギプスではなく、調整や取り外しが可能なシーネや副子を用いるのは、この「肩のこわばりを防ぐ」という世界標準の考え方に基づき、超音波エコーによる客観的な回復評価のもと、一人ひとりにとって最適なタイミングでリハビリに移行するためです。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 固定中、かゆくて我慢できない時はどうすればいいですか?
A1. シーネや副子の場合、隙間から無理に掻くと皮膚を傷つける恐れがあります。まずは冷たいタオルなどで上から冷やしてみてください。それでも我慢できない場合は、固定を調整しますので、遠慮なくご相談ください。ご自身で固定を外すのはおやめください。
Q2. 「三角巾だけ」という固定は、本当に大丈夫なのでしょうか?
A2. 骨のズレがまったくない、あるいはごく軽微な場合は、三角巾とバストバンド(胸に巻くバンド)だけで十分なケースもあります。大切なのは、レントゲンや超音波エコーで骨の状態を正確に診断し、その状態に合った固定法を選択することです。不安な場合は、なぜその固定で良いのか、担当の先生に理由を確認することをお勧めします。
Q3. 固定が緩んできた気がするのですが、自分で締め直してもいいですか?
A3. ご自身で調整するのはおやめください。腫れが引いて緩んできた可能性が高いですが、締めすぎると血行障害などを起こす危険があります。固定の調整は専門家が行いますので、緩いと感じたらすぐに受診してください。
まとめ:納得できる固定方法で、スムーズな回復を
骨折の固定方法は、決して一つではありません。ギプスにはギプスの、シーネや副子にはそれぞれの利点があります。
重要なのは、ご自身の骨折の状態やライフスタイルを考慮し、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、納得できる治療法を選択することです。もし現在の固定方法に疑問や不安を感じているのであれば、それは治療法を見直す良い機会かもしれません。
茨城県牛久市、龍ヶ崎市、阿見町、土浦市周辺で、骨折の治療や固定方法についてお悩みの方は、ぜひ一度、牛久市の蛯原接骨院へご相談ください。一人ひとりの状態に合わせた最適な固定プランをご提案します。
▼骨折の治療全体の流れやリハビリについて知りたい方へ
こちらのピラーコンテンツでは、治療の開始からリハビリを経て、日常生活に戻るまでの全体像を詳しく解説しています。
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【監修】
院長:蛯原 吉正(EBIHARA YOSHIMASA)
資格:柔道整復師
痛みのある箇所だけに対処するのではなく、なぜそこに痛みが生じているのか、その背景にある本当の原因を追究することを信条としています。
一人ひとりの身体の状態や生活習慣と真摯に向き合い、不調が再発しにくい身体づくりをサポートすること。そして、来院された方が不安なく、健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることを目指しています。
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免責事項
本記事は、当院の施術に関する情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代行するものではありません。症状に関する診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。当ブログの情報を利用した結果生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。




