【リハビリ特化型】上腕骨外科頚骨折の機能回復プログラム|時期別のセルフケア完全ガイド

長い固定期間、本当にお疲れ様でした。ギプスやシーネが外れた解放感とともに、「これから治していくぞ」という前向きな気持ちでいらっしゃることでしょう。

しかし、いざ先生から「少しずつ動かしてください」と言われても、「本当に動かして大丈夫なのか?」「また痛くなったらどうしよう…」と、痛みや恐怖で何から始めればよいか戸惑ってしまうのは、ごく自然なことです。

この記事では、上腕骨外科頚骨折の固定が外れた後の、本格的な機能回復を目指すすべての方へ、専門家の視点から「いつ」「何を」「どのように」行えばよいか、安全なリハビリプログラムを時期別に分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • リハビリは「3つの大原則」を守ることが絶対条件
    「痛みのない範囲で」「焦らず、比べず」「専門家の指導のもとで」という安全ルールを守ることが、スムーズな回復への何よりの近道です。

  • 回復は「3つの段階」で進める
    リハビリは闇雲に行うものではありません。「①関節を起こす」→「②可動域を広げる」→「③筋力を取り戻す」という正しい順番で、段階的に進めることが重要です。

  • 動かさないリスクも理解する
    動かすことへの恐怖は当然ですが、動かさないでいると関節が固まってしまう「関節拘縮」のリスクがあります。正しい知識で、このリスクを回避しましょう。

  • 目指すのは「元の生活」を取り戻すこと
    最終的な目標は、日常生活はもちろん、庭いじりや孫と遊ぶといった、人生を豊かにする動作を取り戻すことです。

リハビリの大原則:絶対に守るべき3つのルール

具体的な運動を始める前に、最も大切な3つの大原則についてお話しします。このルールを守ることが、安全で効果的なリハビリの絶対条件です。

  1. 「痛みを感じる一歩手前」でやめる
    リハビリは、決して痛みを我慢して行うものではありません。「少し突っ張るけれど気持ちいい」と感じる程度が最適な負荷です。ズキッとした痛みを感じる場合は、動かしすぎのサイン。すぐに中止し、可動範囲を狭めるなど調整が必要です。

  2. 焦らず、比べず、自分のペースで
    骨のつき方や回復のスピードは、年齢や骨折の状態によって一人ひとり全く違います。他人と比べたり、早く治そうと焦ったりすることは禁物です。昨日より少しでも動くようになったら、それが素晴らしい一歩です。

  3. 必ず専門家の指導のもとで行う
    この記事で紹介するセルフケアは、あくまで一般的なガイドです。ご自身の状態に本当に合っているか、正しいフォームでできているか、必ずかかりつけの専門家に確認・指導してもらいながら進めてください。

【時期別】機能回復プログラム

リハビリは、回復段階に応じて目的と内容が変わります。ここでは大きく3つの段階に分けて解説します。

第1段階(固定除去直後〜):関節を“起こす”時期

  • 目的: 長い間動かさずに固まってしまった肩関節を、重力や腕の重みを利用して優しく動かし始めること。

  • 注意点: この時期は、まだ骨が完全には固まっていません。自分の力で腕を持ち上げようとするのは絶対に禁物です。

具体的な運動:振り子運動(コッドマン体操)

なぜこの運動が最初なのか?それは、腕の力を完全に抜き、重力(腕の重さ)だけで動かすため、肩周りの筋肉にほとんど負担をかけずに、関節を動かすことができるからです。

  1. 痛くない方の手や腕を、テーブルや椅子の背もたれなど安定した場所につきます。

  2. 体をゆっくりと前に傾け、痛い方の腕をだらんと下に垂らします。肩や腕の力は完全に抜いてください。

  3. 体を優しく前後に揺らすことで、腕を振り子のように小さく前後に10回ほど振ります。

  4. 同様に、体を左右に揺らして腕を左右に10回、体を回すようにして腕を円を描くように内外10回ずつ回します。

    • ポイント: 腕の力で振るのではなく、あくまで体の動きで腕が「振られる」感覚を大切にしてください。

第2段階(安定期〜):可動域を“広げる”時期

  • 目的: 痛みのない範囲で、肩を動かせる角度(可動域)を少しずつ広げていくこと。

  • 開始の目安: 振り子運動で強い痛みが出なくなった頃。専門家と相談して開始してください。

具体的な運動①:壁を使った指の運動(ウォールクライミング)


  1. 壁に向かって、腕を伸ばせば指先が触れるくらいの位置に立ちます。

  2. 痛い方の腕の指先を壁につけ、まるで虫が這うように、少しずつ指で壁を登っていきます。

  3. 「これ以上は痛いな」と感じる一歩手前で止め、10秒キープします。

  4. ゆっくりと指を這わせて、腕を下ろします。これを数回繰り返します。

具体的な運動②:滑車運動(プーリー運動)

ドアの上などに市販の滑車を設置して行います。痛くない方の腕でロープを引くことで、痛い方の腕を優しく、かつ安全に持ち上げることができる優れたリハビリです。

第3段階(回復期〜):筋力を“取り戻す”時期

  • 目的: 日常生活や趣味の活動(庭いじり、孫を抱っこするなど)に必要な筋力を、安全な負荷で取り戻していくこと。

  • 開始の目安: 腕をある程度、自分の力で動かせるようになってから。必ず専門家の許可を得て開始してください。

具体的な運動:ゴムチューブを使った内外旋(ないがいせん)運動

内外旋とは、腕を内側や外側にひねる動きです。この動きは、肩の安定性にとって非常に重要です。

  1. 柱などにトレーニング用のゴムチューブを引っ掛けます。

  2. 痛い方の腕の肘を90度に曲げ、脇を締めたまま、チューブをゆっくりと外側に引っ張ります(外旋)。

  3. 体の向きを変え、同様にチューブを内側に引っ張ります(内旋)。

    • ポイント: 脇を締めて行うことで、肩関節に余計な負担をかけずに、必要な筋肉だけを鍛えることができます。

世界標準の考え方とリハビリの重要性

「なぜ、まだ少し痛くても動かし始める必要があるのか?」と疑問に思うかもしれません。それは、動かさないでいると関節が固まってしまう「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」という状態(いわゆる五十肩のような状態)に陥るリスクがあるからです。

この「安静」と「運動」の絶妙なバランスを取ることの重要性は、リハビリテーションの専門家集団である米国理学療法士協会(APTA)も、その患者向け情報サイトで明確に示しています。

骨折後の治癒には一定期間の安静が必要ですが、長期間の固定は著しい関節のこわばりや筋力低下につながる可能性があります。理学療法士は、関節の可動域を回復させ、長期的な機能低下を防ぐために、いつ、どのように安全な運動を始めるべきかを指導します。

引用:米国理学療法士協会(APTA)

この引用が示す通り、リハビリは早すぎても遅すぎてもいけません。だからこそ、専門家が骨の回復状態を見極めながら、一人ひとりに合ったプログラムを進めていくことが不可欠なのです。

よくあるご質問(Q&A)

Q1. リハビリ中に、肩がポキッ、ゴリゴリと鳴りますが大丈夫ですか?
A1. 長く動かさなかった関節を動かし始めると、音が鳴ることはよくあります。強い痛みを伴わなければ、多くの場合、心配はいりません。ただし、音が鳴るたびに激痛が走る、音が 점점大きくなるなどの場合は、専門家にご相談ください。

Q2. どのくらいの痛みなら、我慢して動かしていいのでしょうか?
A2. 基本的に、ズキッとした鋭い痛みを我慢する必要は全くありません。運動後に、心地よい疲労感や軽い筋肉痛が残る程度であれば問題ありませんが、翌日まで強い痛みが残るようであれば、それは負荷が強すぎるサインです。すぐに運動の強度や回数を見直しましょう。

Q3. 毎日リハビリをしないと、元に戻ってしまいますか?
A3. 毎日少しずつでも継続することが理想ですが、痛みや疲れがある日に無理をする必要はありません。リハビリは義務ではなく、回復のためのプロセスです。一日休んだからといって、急に状態が悪くなることはありません。焦らず、ご自身の体と相談しながら進めることが、結果的に一番の近道です。

まとめ:焦らず、一歩ずつ、もう一度腕が上がる喜びを

骨折後のリハビリは、時に地道で、思うように進まず不安になる日もあるかもしれません。しかし、この記事で紹介した原則と段階を守り、正しく続ければ、体は一歩一歩、着実に応えてくれます。

その道のりは、決して一人で歩む必要はありません。

茨城県牛久市、龍ヶ崎市、阿見町、土浦市周辺で、骨折後のリハビリにお悩みでしたら、ぜひ牛久市の蛯原接骨院にご相談ください。専門家があなたの“今”の状態を正確に見極め、目標達成まで、二人三脚でサポートします。もう一度、ご自身の腕で、趣味や大切な人との時間を楽しめる喜びを取り戻しましょう。

▼リハビリの効果を最大化するために。治療の全体像を理解しませんか?

この記事では、機能回復に不可欠なリハビリテーションに焦点を当ててきました。しかし、「そもそも、なぜ自分はこの固定方法だったんだろう?」「治療の最初の段階が、今のリハビリにどう影響しているの?」といった疑問が、心のどこかに残っているかもしれません。

治療の全体像を知ることは、ご自身の状態への理解を深め、不安を解消し、リハビリへのモチベーションを高める上で非常に重要です。

こちらの記事では、リハビリに至るまでの過程も含めた、回復への全ステップを詳しく解説しています。

  • なぜ、ギプスを使わない固定方法が「関節拘縮」の予防に有利なのか

  • 骨折のタイプ(外転型・内転型)が、その後の回復にどう影響するのか

  • 骨の癒合を促すための、固定期間中のアプローチとは

ご自身の体のことを正しく知ることが、回復への一番の近道です。ぜひ、あわせてご覧ください

→ 『上腕骨外科頚骨折の治療 – 手術なしで肩の痛みと動きにくさに悩む方へ』を読む

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【監修】

院長:蛯原 吉正(EBIHARA YOSHIMASA)
資格:柔道整復師

痛みのある箇所だけに対処するのではなく、なぜそこに痛みが生じているのか、その背景にある本当の原因を追究することを信条としています。

一人ひとりの身体の状態や生活習慣と真摯に向き合い、不調が再発しにくい身体づくりをサポートすること。そして、来院された方が不安なく、健やかな毎日を取り戻すためのお手伝いをすることを目指しています。

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