今回の症例はボクサー骨折と言われる中手骨頚部骨折の症例です。
この骨折は骨のずれを生じることが多く、しっかりと正しい位置にずれた骨を戻さないと一生涯運動障害が残ってしまいます。
今回は、当院に来院された症例を元に当院の考えをご紹介いたします。
Contents
中手骨について
中手骨というのは手の甲の骨です。
下の写真は左手部のレントゲン写真ですが、赤い〇で囲まれた範囲が中手骨です。
親指のみ単独の構造になっていますが、2~5指は扇が開くように並んでいます。
2~5中手骨の各骨同士を深横中手靱帯という靱帯がつないでいます。

中手骨骨折の怪我の仕方
けがをした時の外力の加わり方(骨に対しての力のかかり方)によって、骨折線の入り方(骨折のタイプ)や骨折する部位が変わってきます。
一般的に多いものが、下の写真左側のように、こぶしに対して骨軸に向かって直線的に外力が加わったことによって発生する、中手骨頚部骨折です。
主にパンチ動作によって生じることが多い骨折であるため「ボクサー骨折」という別名があります。
若いころに遭遇した中手骨頚部骨折の受傷原因として「けんかで」「壁を殴って」というケースが多かった記憶があります。
右下の写真は手部のレントゲン写真ですが、外力の入り方と骨折の部位を表したものです。矢印の方向から外力が加わることによって、中手骨の中でも細い赤線の部位が骨折します。
骨折を起こすと、赤線を支点として骨頭がお辞儀をしたように下方に転位(骨がずれる)する場合や、回旋転位を起こす場合も有ります。


中手骨頚部骨折(ボクサー骨折)の治療
来院時は、問診をしてから、外見上の変形の有無・痛みがどこにあるか?・指を握る事はできるか・オーバーラップ現象(※)は起きていないか等のチェックをして、超音波エコーにて検査をします。
※オーバーラップ現象とは・・・骨折を起こすことによって骨の軸がずれ、その際に指の軸にもねじれが起きて、指を握る際の軌道に変化が出ます。
これは、指を伸ばした状態ではさほど目立ちませんが、いざ指を曲げる(握る)と、ねじれた指が隣の指に重なってしまい、きちんと握りこぶしを握れなくなる現象の事を言います。
中手骨頚部骨折では、大抵は骨のずれが見られるため、十分に冷却後、骨のずれを治す整復処置をします。中途半端に骨のずれを残さないようにしっかりと治します。
骨のずれをしっかりと治しておかないと、後遺症として、手を握る動作に支障が出ます。この時、オーバーラップ現象が起きていれば、それらが解消されたのかも確認します。
骨のずれを治した後は超音波エコー検査をして骨のずれがきちんと治っているか確認します。
骨のずれが治っていることが見られれば、アルミシーネ(アルミ素材の固定具)やテーピングを用いて、治した骨が再度ずれないように固定します。
シーネ固定後は、患部の管理と骨癒合促進のため微弱電流通電を施します。
当院では、まめに通院していただき、早期の骨折部の安定と固定の除去を目指します。
骨が安定してきたら、固定を軽くし、同時に周囲の関節の運動療法を開始します。
当院に来院された左中手骨頚部骨折(ボクサー骨折)
今回は当院に来院された、左第5中手骨骨折の症例をご紹介いたします。
受傷原因
夕方、スーパーに買い物に行った際に、近くにあった車止めにつまづき転倒、手をつき受傷する。
症状
左手背部の腫脹・中手骨頚部の圧痛・指の屈曲制限等の骨折特有の症状がありました。
外見

受傷後、一時間たたないで来院された時の外見写真です。
健側と比べると手の甲に腫れがあります。
また、この骨折の特徴として脂肪や筋肉の少ない手の甲は骨折による骨のずれによるへこみが目立つのが特徴です。
処置
上で挙げた通りの症状があり、左第5中手骨頚部骨折という判断がついたので、徒手整復(骨のずれを戻す)をしました。
整復後レントゲン写真


白い矢印が指す所が骨折している場所です。
整復前は骨折線を境にして骨頭がお辞儀をしたようにずれていましたが、この写真ではしっかりと元の位置に戻っています。
受傷日翌日から患部の腫脹・皮膚の管理や患部に対して、微弱電流通電をします。
固定除去後に各関節のリハビリを開始します。
この方の場合は、徒手整復がうまくいっていたこともあり、リハビリの経過も順調でした。
中手骨頚部骨折のまとめ
中手骨頚部骨折を治療する上で大事なことを挙げたいと思います。
- 骨のずれの状態やオーバーラップ現象がないかをみる事。
- 骨のずれがあればしっかりと元の位置に戻す事。
- 骨のずれを戻さないまま骨がついてしまうとその後、後遺症が残ります。(具体的には強く手を握れなかったり、指同士が重なってしまい拳が作れなくなります。)
- 固定をする際はずれないように固定をする。
固定も大事になってきますが、まずは、骨のずれをしっかりと治すことが一番大切です。
他院で、骨のずれがあるままギプス固定を受けて、骨がついてから相談の為に当院に来院された方もいらっしゃいます。
骨折する部位によっては、多少ずれがあっても大丈夫な場所もありますが、この中手骨骨折は、ずれがある状態で固定して骨がそのままついてしまうと、一生後遺症が残ります。
以前、橈骨下端部骨折の投稿にも書きましたが、骨折治療では先生の技量が大きく影響します。
ご相談は、いつでもお受け致しております。